砂防学会長
(一社)全国治水砂防協会 理事長
大野 宏之

 このたび第6期の砂防学会長に就任いたしました大野宏之です。重責を担うことになりました。精一杯頑張りたいと思いますので、どうかご支援、ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。

 世の中はコロナ禍の真っ最中にありますが、自然災害は待ったなしで人間の生活の場を襲ってきます。とりわけ土砂による災害はその影響が激甚なものになることが多いのはご承知の通りです。近年では気候変動の影響と言われる極端な気象災害が多発傾向にあり、大規模な土砂災害が発生し、社会への影響も増大しております。人類の歴史の中でも特筆すべき時期と言えるかもしれません。

 このような時期における公益法人としての砂防学会の役割は非常に重要なものがあります。災害発生時の緊急調査も積極的に実施し、再発防止や対策のための提言等も行っており、この役割は今後ますます重要なものになると思われます。また、藤田正治前会長の指導のもと、学会としても「気候変動により激甚化する土砂災害に関する研究小委員会」を組織しております。今後、気候変動が土砂災害に与える影響を明らかにし、対策の重要性を示していくこととし、学会としての社会的な役割を果たしていきたいと考えております。

 そもそも砂防学会を構成する学問分野は広く、土石流、地すべり、崩壊現象そのものに対する研究をはじめ、山地や河道における土砂の運搬・移動や森林と降雨・地下水流出など基礎的な研究はもちろん、砂防の調査・計画や施設の設計・施工に関する実学の分野や土砂災害に関する災害情報、警戒避難体制の在り方など人文・社会学的な分野等も内包している学会です。そのため学会員の構成も、大学の研究者、建設関係のゼネコン・コンサルタント・メーカーに勤務される方、国・都道府県の行政関係者等と立場の違う方々が所属しています。それぞれの分野で学問として掘り下げられ、また技術として進化していくことも重要ですが、分野の違う研究者・技術者が互いに協力して、研究や現場でのプロジェクトにおいて協働を行うことにより、研究や技術に関する成果を効率的かつ効果的に獲得していけると考えています。砂防学会がそのようないわばプラットホームとして機能を持つことが学会の大きな役割であり、今後ともこのような活動を積極的に行いたいと考えております。

 また、最近は残念なことに、大学において土砂災害に関係する講座のポストが減っていく傾向にあります。増大する土砂災害の件数や被害状況を見るにつけても、このような大学におけるポスト減の問題は看過できないものであります。大学は研究機関であると共に教育機関であり、人材を供給する貴重な組織であります。この組織が弱っていけば将来の砂防界にとっても大きなダメージをもたらし、わが国の防災という観点からも心配事です。この問題は、砂防関係の若手研究者や技術者の人材育成の必要性とも密接に関係しています。学会としても、砂防関係の組織強化、人材育成に益々力を入れていくことが喫緊の課題であり、まさに社会的使命であると感じております。また、国際的な取り組みも必要と思われ、グローバルな視点も必要です。今後、海外との研究者、技術者同士の人材の交流や共同の作業を通じ国際的に活躍できる人材育成にもますます力を入れていく必要があることは論を待ちません。

 さいわい、年々学会内の部会や地域の各支部の活動が活発になってきております。国内外を含む多くの人材の交流が新たな研究や技術を生む土壌になります。大いに学会活動を盛り上げ交流促進の場を作っていきたいと思います。

 さらに、学会の人材育成のプログラムの一つとしては砂防技術者の資格付与と教育の場の提供が重要であり、現在、制度として定着してきた「砂防・急傾斜管理技術者」も国において資格者活用の取り組みが本格化してきております。講習会等も含め、これらの取り組みを着実に進めていくことが学会としての役割であると考えております。

 砂防学会は、自由闊達な議論ができる場であります。比較的フラットな組織構造を持つ良さがあります。多くの学会員の皆様が学会に所属して良かったと思えるような運営を心がけていきたいと考えております。何か意見や要望がございましたら連絡していただければと思います。皆で一緒に学会活動に取り組んでいきましょう。どうかよろしくお願い申し上げます。