頻発化する大規模土砂災害の対策に如何に貢献するか,皆さんと考えたい
京都大学防災研究所 教授
藤田正治
砂防工学
土砂水理学
お身体大丈夫ですか?お変わりありませんか?今はどうもこのような会話で始まることが多いようです。外出先で検温され,大丈夫ですと言われるとほっとする場面も多いです。皆様,お元気でしょうか?砂防学会第5期会長の藤田正治です。日ごろから公益社団法人砂防学会の運営にご協力いただきまして,心から御礼申し上げます。この度この大役を仰せつかり,重大な責任を感じつつ,期待に応えられるよう頑張りたいと思っています。皆様のより一層のご協力,よろしくお願いいたします。
まずは,新型コロナウィルスの影響で令和2年度(公社)砂防学会定時総会並びに研究発表会 愛知大会が中止になりましたこと,この場をお借りして深くお詫びいたします。発表準備をされていた方々,研究発表会での議論や意見交換会を楽しみにしていた方々,企業展示の準備をしていただいていた方々,さらには,開催準備にご苦労された実行委員会の皆様には,中止という苦渋の選択をしなければならなかったこと,申し訳ない気持ちで一杯です。
さて,最近の10年を振り返ると毎年のように豪雨や地震による土砂災害が続き,災害対策や災害研究の進捗が災害の発生に追いつかない状況です。大規模な土砂災害の発生後,砂防学会では緊急調査団を結成し,災害の原因やメカニズム,緊急対策,恒久対策などについて提言を行ってきました。また,このような災害調査を通して,現在,わが国が抱えている土砂災害に関する諸問題が浮き彫りにされてきました。最近の雨の降り方を見てとくに気になるのは気候変動に関する問題です。気候変動は自然災害だけでなく,水資源,水環境,農林水産,産業・経済活動,国民生活などに広範囲に影響しますが,砂防学会としては気候変動の土砂災害への影響を明らかにして,影響の重大性や対策の緊急性をアピールしていきたいと思います。
土砂災害の発生件数が多くなると調査方法も効率化していかなくてはなりませんし,多くの研究者や技術者も必要です。最近, UAVを所有している若手研究者も多いようで,地形データもそれを使って簡単に作成できるようです。斜面を登る必要がない時代が近づいているような気配です。しかし,現地を歩いて調査することももちろん忘れてはいけません。現地調査でデータを収集しながら効率的にデータ整理できるツールを開発し,活用している研究者もいます。このような砂防分野の調査が効率的にできるような新たな技術開発を進めることも重要だと思います。人材の確保については,第4期に砂防人材育成委員会で議論を重ね,昨年「砂防人材育成行動計画(案)に係る報告書」が提出されました。人材の確保と育成には産官学が連携することが重要であり,その仕組みづくりが必要です。仕組みがあってもそれが機能するには時間も必要です。学際領域の多い砂防分野においては,他分野との連携を積極的に進めていきながら,産官学でうまく回転するような仕組みを目指したいと思います。
新型コロナウィルスの問題は皆様の日常生活、仕事環境、大学生活などに大きな影響を与えています。当初より少しは明るい兆しが見えてきたようにも思いますが、今すぐ前の生活に戻ることはできません。来年度の研究発表会は新型コロナウィルスの事態がどうなっているかわかりませんが,オンライン研究発表会で実施する準備をしています。オンラインでは対面での発表会とは違い,人と人を結びつける効果が弱いです。様々分野の方々が交流する意見交換会も中止せざるを得ません。オンライン研究発表会の利点を生かしながら実施する予定ですが,皆様の結びつきがこれまで以上によくなるようなアイデアがありましたら是非お知らせください。お待ちしています。また,来年度から定時総会と研究発表会とは別の日程で行うことにしました。また,学会賞の受賞者の皆様には,これまでの簡単な挨拶に代わり,研究発表会において講演していただくことを考えています。学会ホームページや学会誌で確認するようお願いいたします。
最後に,まだまだ新型コロナウィルスの影響は続きますが,土砂災害はそれと関係なく発生します。災害の激甚化を目の当たりにして災害の対策や避難の在り方などが問われている時代です。今後の皆様のご活躍をお祈りしています。