平成11年7月19日

「広島土砂災害緊急調査の中間的まとめ」の公表


(社)砂防学会 広島土砂災害緊急調査団

団 長 海堀 正博(広島大学)  
団 員 石川 芳治(京都府立大学)
    牛山 素行(京都大学)  
    久保田哲也(鳥取大学)  
    平松 晋也(高知大学)  
    藤田 正治(京都大学)  
    三好 岩生(京都府立大学)

土砂災害緊急調査委員会

委員長 下川 悦郎(鹿児島大学)


 (社)砂防学会は,6月29日に広島県下で発生した土砂災害について, 広島土砂災害緊急調査団を発足させ,災害実態の把握と災害原因の分析にあ たっています。これまでの調査結果を「中間的まとめ」として,取りまとめ ましたので,ここに公表いたします。
 なお,ご質問等ありましたら,恐縮ですが,下記までお問い合わせくだ さい。

 問い合わせ先   海堀 正博
  所属:広島大学総合科学部
  〒739-8521 東広島市鏡山1−7−1
  電話:0824-24-6522  Fax.:0824-24-0758


広島土砂災害緊急調査の中間的まとめ


I.現地調査日および現地調査参加者


(1)6月30日(水) 参加者:海堀正博
(2)7月1日(木) 参加者:海堀正博,石川芳治,三好岩生
(3)7月3日(土) 参加者:海堀正博
(4)7月4日(日) 参加者:海堀正博,石川芳治
(5)7月5日(月) 参加者:海堀正博
(6)7月7日(水)〜7月8日(木) 参加者:海堀正博,牛山素行
(7)7月10日(土)〜7月11日(日) 参加者:海堀正博,石川芳治
(8)7月13日(火)〜7月14日(水) 参加者:海堀正博,牛山素行,久保田哲也,平松晋 也,藤田正治,三好岩生
(9)7月19日(月) 参加者:海堀正博,牛山素行,平松晋也,下川悦郎,地頭薗隆(鹿 児島大学,協力者)
 
屋代町・上小深川の現場を視察する調査団


II.調査結果の中間的まとめ

1.土砂災害の発生状況について

(1)災害発生の引き金となった豪雨の特徴
 豪雨は,時間的にも空間的にも集中性が強かった。1時間雨量に おいても,日雨量においても,広島において過去に大災害につなが ったものと同程度の激しい豪雨であり,かつ,現行のアメダス観測 点のデータだけではとらえきれないほど非常に局地性が強かった (図添付)。


広島市周辺における1999/6/29日の日雨量分布
等値線間隔は10mm。黒丸は観測地点。


(2)土砂災害発生場所の分布
 土石流,崖崩れ(急傾斜地崩壊)の発生場所は,豪雨の分布と よく対応している。

(3)土砂災害の発生状況
  1. 土石流
    1. 土石流の発生源の大部分は渓流源頭部の表層崩壊である。
    2. 0.05平方キロメートル以下の小さな流域(いわゆる浅い谷) であっても犠牲者を伴う土石流災害が発生している。一部の渓流で は,規模は比較的小さいが,土石流は防災施設(ダムや沈砂地など) を越えて下流の流路からあふれ,居住エリアに氾濫するに至った。
    3. 広島市佐伯区の古野川,荒谷川,屋代川では特に大量の流木 を伴った土石流が発生した。その土石流は谷の下流部に至ると,小 橋梁等に詰まって氾濫し,流下方向を変えた。こうした土石流の流れ の変化に応じて,被害の現れ方も複雑である。また,流木は被害を 大きくしている。
    4. 流木は崩れた斜面と土石流が流れ下った渓床周辺から発生 した。その樹種はスギ,ヒノキ,マツ,広葉樹である。マツの流木 には枯死木も含まれる。
    5. 土石流を構成している土砂は細粒分に富む。
  2. 崖崩れ
    1. 呉市を中心に崖崩れが多数発生し,そのうちの数カ所で犠 牲者が出ている。
    2. 崩壊した斜面は花崗岩の風化物(ブロック化した岩塊およ びマサ土)から構成される。
    3. 斜面の傾斜は40〜50度である。

    (4)土石流および崖崩れの発生原因
     今回の土石流および崖崩れの発生の原因には素因としての地質・ 地形・土壌・植生と誘因としての降雨がある。特に今回は誘因で ある降雨が強く影響して災害が発生したものと思われるが,今後 災害の原因については詳細な検討が必要である。

    2.対 策

    (1)緊急対策
     二次災害を防止するために緊急の防災対策(既設ダムの堆積 土砂の除石,不安定な斜面の応急手当,警戒避難,新たな防災工事 など)を講じることが必要である。

    (2)恒久対策
    1. 今回の土砂災害の実態を踏まえたうえで必要な防災対策を 講じることが必要である。
    2. ソフト対策をいっそう充実させる必要がある。とくに, 局地的な豪雨を正確に把握できるような雨量観測網の整備が望ま れる。
    3. 土地利用のあり方を含めた総合的な土砂災害対策を講じる 必要がある。
    4. 住民も災害を防止するために自ら努力することが必要で ある。

    3.その他  以上はこれまでの調査の中間的まとめであり,ある程度の 推測も含まれている。今後さらに現地調査と資料解析を行い, 災害実態の把握につとめるとともに,土石流・崖崩れのメカニ ズム,原因,災害対策について検討する。検討した結果は砂防 学会誌等に公表する。

    おわりに
     今回の豪雨による災害で広島県では死者31名という多数の 尊い人命が失われた。亡くなられた方々のご冥福を心からお祈り するとともに,ご遺族の方々に哀悼の意を表する次第である。 また,被災された方々が一日も早く立ち直られるように心から 願っている。

    以上。


    記者会見する下川委員長・海堀団長ら調査団


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Last modification: Oct 05,1999; since Jul 20, 1999.