平成19年度砂防学会賞選考結果

砂防学会賞選考委員会委員長 丸谷知己



平成19年度砂防学会賞は、砂防学会賞選考委員会での厳正な審議を経て平成18年度第5回理事会において論文賞1名、論文奨励賞1名、砂防技術賞1件が承認された。

論文賞:藤田正治 会員(京都大学防災研究所水災害研究部門教授;昭和62年京都大学大学院工学研究科博士過程修了、工学博士)

対象論文:生成項を考慮した浮遊砂拡散方程式とその適用、藤田正治・水山高久、砂防学会誌Vol.57、No.6、p.3-12、2005
受賞の理由:近年、水系を通じた土砂管理が環境面や防災面で重要であるとの認識が高まり、流域全体の土砂移動をシミュレーションモデルで追跡する試みが多く行われている。しかし、緩勾配の下流河川に比較して、急勾配で粒径分布が広く相対水深が小さい山地河川では、流砂の挙動は複雑であり、これまで研究の進展もあまり見られていない。藤田らは、特に山地河川における浮遊砂の濃度分布について、相対水深が小さい流れでは通常より大きな拡散係数を持ちなければRause分布に適合しないことを、これまでの研究成果のレビューから指摘し、砂粒子のプレサスペンション過程のモデルと生成項を考慮した拡散方程式を用いた浮遊砂濃度分布モデルを構築した。これにより、従来のモデルでは不明確であった基準点高さや拡散方程式の境界条件の問題点が解消できるとしている。今後、この成果は山地河川における流砂量の評価に大きく寄与するものと考えられ、本論文の主著者である藤田氏は砂防学会論文賞を受けるにふさわしいと判断された。

 

論文奨励賞:黒岩知恵 会員(アジア航測株式会社;平成15年高知大学大学院農学研究科修士課程修了)

対象論文:森林伐採や植栽を指標とした崩壊面積予測手法に関する研究、砂防学会誌、Vol.57、No.2、2004
受賞の理由:森林伐採後の植栽の有無によって流域内の崩壊の発生状況が異なることはこれまでも指摘されてきたことである。黒岩らは、具体的な実例に基づき、崩壊の消長をモデル化することによって、森林伐採や植栽を指標とした崩壊面積の予測手法をはじめて提案した。また、「崩壊可能面積率指標」を新たに導入することにより、これを森林施業の状態(伐採、植栽)の変化と明確に関連付けた崩壊危険度の評価指標とし、これと年最大日雨量とを表層崩壊の説明変数とした独創的な崩壊面積率予測式を開発して再現計算を実施したところ、良好な再現性が確認された。これによって、既往のダム堆砂量予測式では再現することのできなかった堆砂量の急増現象を説明することに成功した。今後とも裸地斜面の植生回復過程や豪雨等による崩壊拡大過程等といった崩壊斜面の変遷をも考慮することによってモデルの再現性精度の向上が期待される。黒岩氏は本論文の主著者であり、砂防に関する学術の発展に顕著な貢献をなしたものと認められた。

 

砂防技術賞:内田太郎(国土交通省砂防部砂防計画課計画係長)、吉岡英幸(神奈川県藤沢土木事務所河川砂防第3課長)、原義文(長野県砂防課長)、瀬尾克美((株)日さく常務執行役員、元(財)砂防・地すべり技術センター専務理事)、長谷川秀三(ジオグリーンテック(株)代表取締役社長)会員

対象業績:SH型簡易貫入試験機の開発と適用
受賞の理由:SH型簡易貫入試験機は、(財)砂防・地すべり技術センター及びジオグリーンテック(株)により開発された斜面の表層構造調査用の簡易貫入試験機である。従来の簡易貫入試験機は、地表下約5mより浅い地下構造を把握するために開発されたものである。しかし、その貫入力が強く表層崩壊のすべり面となる地表下2m程度の測定には適していないため改良されたものである。重錘を3kgと2kgに分割し着脱可能な構造とすることにより、比較的やわらかな土層の測定精度が向上できるようになった。同時に一打撃毎の貫入量の測定が可能なデータロガーを開発し、より詳細な土層構造を把握し、崩壊深を推定することを可能とした。同試験機を神奈川県及び長野県において風化土層厚の把握や段丘斜面における土層状況の把握に適用し、コストを抑えながら表層崩壊すべり面を的確にとらえることができることを示した上で、急傾斜地崩壊対策計画の立案及び施設の設計が合理化できた事例を示した。これらの成果は、今後の斜面対策施設の適切な設計や工事における安全管理に大いに寄与するものと考えられた。本成果は、平成14年、16年、17年の各年度の砂防学会研究発表会概要集に掲載された。


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